【感想】Cyberpunk 2077 を「今」「PS4で」遊ぶ楽しさ

・最初に余談

このあとバグった感想文を書き散らすので、まず最初に、このゲームの真っ当に評価されてしかるべき部分についてしっかり記しておきたい。ユーザーが本作にどんな感想を抱くにせよ、各国の「ローカライズ」の素晴らしさは本当に評価されるべきだと思う。

あの膨大なテキスト群を、全て高品質の翻訳で再現して見せたこと。それらをフルボイスの吹き替えで美しく表現してくれたこと。主人公が男女2パターンいたり、キャラクターやクエストのシナリオ分岐の数を考えれば、この基本をしっかり押さえただけでリスペクトの対象だ。だって、このゲームのマップの広さを知っていますか。225平方キロメートルですよ。その中にある全ての「ことば」を訳すって、前提として正気の沙汰ではないことじゃないですか。しかも、『ウィッチャー』シリーズと同様セリフの一個一個がウィットに富んでいるわけで……「会話するだけで楽しい」という快楽は、前提として膨大な翻訳コストの上に成り立っている。

 

ありがたい!!

 

しかも、この翻訳の素晴らしさは単純なテキストだけじゃない。本作は言語に合わせたリップシンク(唇の動きを音声に連動させること)を徹底している。口の動きだけ再現するなら昔からあるのだけれど、今作は「眉」の動きを含めた話者の表情まで細かく連動させているのだ。

 

この動画(というかツイートを読むだけでも)分かると思う。言語ごとにキャラクターの表情が違う。JALIと呼ばれるこの技術はCD PROJEKT REDの前作『ウィッチャー3』でも用いられていたようだが、一人称視点でキャラクターの表情を凝視する今作においてはより重要な意味を持っていると思う。個人的な話をすれば、初めて海外ゲーム作品のキャラの「表情」に感動して、本気で泣かされた。無意識に感じていたであろう言葉の壁を自覚し、それを乗り越えた心地がした。だってパナムがどう考えても日本語で喋ってんだもん! 言葉が「通じた」、その実感を初めてゲームで得られたんだもん!!

 

ありがたい!!!!!!!!!

 

……と、いうわけで、このゲームのローカライズはマジのマジに素晴らしいと思っている。スパイダーマンThe Last of Us Part Ⅱ、そしてなによりゴーストオブツシマなど、近年大作ゲームの翻訳の素晴らしさはどれも感謝しても仕切れない水準に達しているが(ツシマに関しては作品そのものにローカライズチームが影響を与えているくらいだから)、個人的に一番感動した翻訳はパナムと見上げる星空だった。間近でキャラクターの顔を凝視する主観視点のロールプレイも相まって、今作のローカライズにはかつてない感動があったことを強く訴えておこうと思う。

 

(ところで、ローカライズといえば発売が数週間後に迫ったにも関わらず日本語版が出るのかどうかさえ発表しない『Hitman 3』はどうなったのでしょう……ワーナーさん、準備は一任されているでしょうか……?)

 

 

・以下、本編

とはいえ、だ。

今作、とくにCS版はバグが多すぎてまともに遊べないとの批判もある。実際、僕もクリアに至るまでに様々なバグを体験した。進行不能で何度もロードし直すこともあったし、最悪進まないまま放置せざるを得ないサイドジョブもあった。ボス敵であるサイバーサイコの一人が物理的に出現せず、トロフィーコンプは夢に消えた。そもそもこのゲームトロコンする胆力が自分にあったかもわからないけれど。

何より、ソフトが何度も何度も何度も落ちる。その頻度ゆえか、物語上の劇的なタイミングでホーム画面に引き戻されることもあった。

詳細はネタバレになるので避けるが、序盤の某キャラがチップを強引に引っこ抜こうとしたあの瞬間  あの瞬間にソフトが落ちて、その時僕は感動した。その瞬間は、それが『MGS2』のFISSION MAILED的なメタ的演出だと思ったからだ。

 

でも、普通に落ちただけだった。

再起動すると、ユーザー情報が破損していて、萎えるというより悟った。

つまり、これこそが本物のサイバーパンクなんじゃないかと。

 

幾度となくソフトが落ちる中で、正直ゲームへの態度が適当になっていった。最初は丁寧に丁寧に遊んでいたが、徐々に面倒臭さが勝り始めた。落ちる前のNPCとの会話の流れを再現するのが面倒で、思わず話し相手を刀で切り裂いてしまったこともある。ボス戦のやり直しが煩わしく、抜け穴を探し回った結果「システムリセット」ハックの魔力に取り憑かれたこともある。

 

でも、これは暴言なのかもしれないけれど、オープンワールドってそういうものなんじゃないかな。いかにして手を抜くか。これだけ広い世界で、いちいちボスに歯ごたえを感じているようじゃ立ち行かないし、良くも悪くも手を抜くすべを見つける必要があるものだ。

広大で複雑な世界での遊びをどうにかやりくりして、ある種のパターン化、つまりは「作業」化していく。最初は些細なことでも気を張ってしまいがちになる中で(オープンワールドって慣れるまでは結構面倒臭く感じることもあるじゃないですか)、少しでも楽をする方法を見出していく。そうして気がつくと、その辺の敵は鼻をほじりながらでも(比喩ですよ?)倒せるようになっている。なんだ、簡単じゃんと肩の力が抜けていく。

その気楽さが、その世界の居心地の良さのように感じられる瞬間  それが、オープンワールドを好きになれる瞬間だと自分は思う。

 

サイバーパンク2077は、その気になればズルや抜け駆けがし放題な作品だ。このゲームの主人公はハッカーであり、ある種の「チーター」だ。知識スキルを積みまくると、最終的には目を合わせるだけで敵を仕留めらることができる。不条理なまでに敵を圧倒する力が手に入るのだ。

おまけに、舞台は無法地帯ときた。法(ルール)を多少犯したくらいで良心は痛まない。ズルを働いた時、罪悪感ではなく「してやったり」と感じられる。半ば恣意的に、作り手がユーザーに抜け穴を見つけてもらおうとしている、そんな気配すら感じられる。

だから、そこには間違いなくオープンワールドの快楽があった。

 

とてつもなく気楽で、親しみやすい世界としてのナイトシティ。本作のシャレにならないバグの数々は、そんな作品の本質をやんわりと伝えてくれた気がしたのだ。だからこそ、この作品のバグは「楽しい」し、世界の一部として機能しているとさえ感じた。

 

バグなんて本来ない方がいい。それは偶発的な不純物であり、作品の欠陥だ。快適に遊べてこその商品だ……なんて、肩肘を張る必要はない。何が面白くて何がつまらないのかを決定づけるのは、作品のクオリティだけではないと自分は思う。一見不純物に見えるものが、実は作品の体験価値を引き上げていることもあるからだ。

だから、作り手が言ったら炎上必至だろうことを、一人のユーザーとして声高に提唱しておきたい。10年後、バグまみれだった初期のサイバーパンクはある種の魅力的な体験として、ユーザーの語り草になるであろうと。そう楽観的に受け止めた上で、本作は「文句ありの大傑作」として記憶にとどめたい。

 

きっと、このゲームで壊れることができるのは今しかない。

なぜこのゲームで遊ぶのか……本当に、健全な体験だけをすることが望みか?