平成の呪い

 巨大なG  少なくとも、ここ数年で見かけた中では最も大きなあずき色のGが、自室の本棚の下に潜り込んだ。どうすることもできなかった。

 

 午前中は『アントマン&ワスプ』を観てご機嫌だったから、自分は虫にもう少し耐性あるものだと思っていた。が、Gの潜む部屋で電気を消して眠る”ヴィジョン”を思い浮かべるとそれだけで額のマインドストーンが砕け散りそうになる。その場の思いつきで部屋全体にブラックキャップを設置し、リビングに退避することにした。

 

 廊下を抜けてリビングにたどり着いた瞬間、僅かな段差に左足の小指をぶつける。普通に痛い。いや、普通以上に痛い。なんかいつもとは違う。よく分からない。しばし悶絶する。

 

 8月31日。一介の大学生からすれば、まだまだ夏は続く気でいる。しかし、不覚だった。リビングでは高校生の弟が徹夜で宿題をやっていたのだ。その辺に適当にマットを敷いて寝ようとしたが、奴は三十秒に一回うめき声をあげる。うるさい。

 寝落ち対策でテレビを点けてやがる。うるさい。

 全米オープンナダルが戦っている。寝かせろ。

 

 結局、本当に一瞬だけ意識を失うことに成功したが、二時間もしないうちに「レポートが提出できない」と叩き起こされる。

 筆者はGが無理だからこの部屋にいるのであって、お前の介護に来たわけではない。しかし、奴はうるさい。まさかお前、このために部屋にG放ったわけじゃないだろうな。午前中に『アントマン』を観たせいか、虫に謎の戦略性を見出してしまう。

 

 そして、なんやかんやで朝が来る。

 

 やけくそでコーヒーを飲んでいると、つま先に小さな違和感を覚える。視線を下ろすと、左足の小指の爪の上半分が、知らぬ間に消失している。繰り返す。小指の爪の長さが半分になっている。

 

 

 サノスか?

 

 

 マインドストーンは昨晩Gが砕いたはずだったが、気がつくと奴の手中にあったらしい。サノスはインフィニティガントレットの力を使い、愚かにも足の小指の爪の長さを半分にしやがった。何を危惧したらそうなるんだ。

 その指パッチンには何のタクティカルアドバンテージもないが、九月が始まる。Gはまだ発見できない。